| 2. 島から島へ |
TV画面、ノイズ画面
間
TV画面、白色
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| 女2 |
私は島の皆が寝静まるのを待って、船着き場へ引かれて来たの。10人の男たちが松明(たいまつ)を照らして、私の背中を押したわ。真っ暗な岸に近づいたら、雨が落ちてきて、私の顔や胸を濡らしたわ。私の足取りは重たかった。男たちの顔は雨垂れのせいで、てらてらと光はしていたけれど、誰一人として、何も喋らなかったわ。土砂降りの雨は地面を抉(えぐ)り、小さな島々を海水で洗い流しでもするように、激しく降ったわ。向こうの方に見える船着き場には、黒い帆を張った1艘(そう)の小舟が波に揺られていて、3、4人の男が飛びかかりその船に私を乗せたの。それから私一人乗った黒い小船を海へ押し流したの。恐ろしい勢いで躍りかかる波の上に雨が降り注ぎ、雨水は海を濡らしたわ。
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TV画面、ノイズ画面
波のぶつかる音が大きく聞こえる
TV画面、白色
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| 女3 |
水を飲んでも、飲んでも喉が乾くの。ましてこんな海の真ん中で飲める水が有る分けないわ。こんなに回りは水で一杯なのに、飲めなくて、喉が渇いて堪らないわ。 |
TV画面、青色に明るくなる。
哀れみを帯びた音楽
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| 女1 |
(正面を見渡し、夢うつつな声で)声がしたの。とぎれることのない 鳴き声が。最初その声は誰かが歌っているように聞こえたわ。ところが少し経ってその声は、人の身体がドボンと水に沈む音に変わっていったの。それから直ぐに、すすり泣く声に変わってずっと続いたわ。私は水辺を歩いていき、足を止め、何かを探そうとしたけれど、何も見つけ出せなかった。 |
| 女2 |
日が暮れて暗くなり、鬼神が現れて私を捕らえて食べてしまう様で、怖くて鳥肌が立ったわ。月影を辿って、歩いていると、髪を振り乱した女が私についてくるの、私はそこから逃れたくて速く歩こうとするんだけれど、足が動かないの。突然、周りが静かになったわ、私は震えていた。怖かったのか、寒かったのかよく分からない。只、何処からか笛の音だけが聞こえて来るの……
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笛の音
TV画面、深い青色。
波の音が聞こえてくる
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| 女1 |
(恰も真横に人が立ってでも居るように、振り向いて)
声が聞こえるでしょう?船が戻ってきたのよ。聞こえない?私の耳には、はっきりと聞こえるわ。みんな戻ってきた様よ。誰も死ななかったのよ。
(荒々しく身体を引っ張る) 何するの! はなしてよ! 私を掴まえないで! 私の身体に手を触れないで! 私はもう私ではないのよ。
さあ、あの海を見て! 皆戻ってきているのよ!(振り返える)見えないですって? 私には見えるわ。大漁のようよ。旗を揚げて、歌っているわ。楽しそう。肩で踊っている。甲板(かんぱん)の上で、こちらに向かって手を振っているわ。(高まっていた感情が急に下がる。相手が何か話したようだ)幻を見てるんだって? 化け物ですって? 本当に? 私、今、幻を見てるって事? 何かが乗り移たって?……(急に悪魔にとり憑かれたように、相手の首を締める真似) 私が殺してやる! 私が殺してしまう! 殺して……(力の限り首を押さえる動作)この! この! この! 殺してやる! |
TV画面、急激にノイズ画面に変化する。
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| 女3 |
(急に自分の首を掴んで踏ん張る。誰かにきつく首を締められる)あ! ああ!(片方の手で自分の首を掴み、もう一方の手で相手を押す。ばたばたする)
あ! ああ! ああ!(踏ん張る姿には、哀れみさえ覚える) |
短い間
TV画面、青色
波の音
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| 女2 |
(顔を擡げる。顔には血の気が無い。暫く正面を凝視する)夢だったのかしら?……だけど私ハッキリ見たのよ! 漁に出た船が戻ってきたのよ。死んだ人は居ないのよ。旗が靡(なび)いて、鐘と太鼓や、銅鑼(どら)を叩きながら甲板で皆踊っていたのよ。(横に誰なのか透明な人間が居る。ぎょっ!と振り向く、が誰もいない。安心!)…… |
| 女3 |
仰(おっしゃ)るとおり、夢で幻を見たのかも知れないわ。でも、誰かが私の首を締めて、殺そうとしたのよ。隣の島で、ある男がドボンと水に落ちた事も私は知らなかったわ。 |
| 女2 |
でも、でも、私その男を見たこともないのに、本当に見たこともないのに、男一人が私に襲いかかって首を締め、髪の毛を掴んで、間違いなくその男を見たろ、正直に白状しろと、脅すのよ。私、本当に知らない男だったのよ。あの男がどうして、船でこの島にやって来たのか……どんな格好をしていて、何処から来たのか……私は知らないのよ。もどかしいわ。恨みや悔しさは尽きないのに、誰の子か分からない子どもを孕(はら)んだと……(すすり泣く) |
| 女3 |
今までのことが分からないのに、先の事なんか分かりはしない。私にはいい返す言葉が無く、言い訳の何のと出来るはず無いでしょう?
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暗転
ジェット機が飛んでゆく鋭い音
波が襲いかかる恐ろしい音
TV画面、白色
女、中腰で正面を見渡し立つ。
波打つ音
TV画面、青色
女、正面を見つめていたが、瞬時に崩れるように座る。
間
TV画面、白色
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| 女1 |
(透明な母に白い鉢を差し出す)母さん、夢を見たようね。さあ、この水をどうぞ。気が静まりますよ。(透明な母が鉢を手で払いのけるのがはっきりと見える。女がかかえていた鉢が床に落ちる。女、たじろく。だが、直ぐ姿勢を整えて、また水を掬(すく)い心を込めて差しだす。)母さん!(しかし鉢はずうっと向こうの方に落ちる)……母さん、不吉な夢でも見たの? 恐い夢だったの? ええ? (落ち着かず)それって一体どういう事なの? 隣の島に若い男が来たって事? 髪を振り乱した娘の鬼神を火掻き棒を持って母さんが追いかけたですって?……えっ、娘の鬼神?何処へ?……(ひどく不安がる)ええ? 母さん、どうして!(透明な母が何か叫んでいる。素早く引き下がり、座る。顔色が蒼白になる。)
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音楽
TV画面、青色
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| 女2 |
(魂が抜けたような表情で)鬼神の言葉だって、人の口から伝われば邪悪さが覆いかぶされて、尤(もっと)もらしく聞こえると言うじゃない、私の母だって惑わされてしまったもの。ひかき棒を持って隣の島の若い男を追いかけたなんて、もう母さんだって私が信じられないようね。
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| 女3 |
みんなの心の病は、もはや骨の髄にまで達している、誰かが進み出て、身代わりに死ななければ、平和は訪れないようですね。私が死なないとね。私が死んで鬼神に魂を抜かれた人達を、解き放してあげなければね。これしか無いかもしれませんね。けれど悔いや悲しみは極まり無いわ。永遠に生きたいとか、死にたくない、なんて言う、そんな愚かな想いからではなくて、私の死が理不尽なもので、悲しみが止めどもなく押し寄せてくるからよ。人や獣が死ぬと、本来肉や血は水になり、骨は腐って土になるわよね、死ぬと言う事は、何もかも消え去ることでは無いわよね。 |
| 女1 |
だけど生と死が、こうして、鬼神の亡霊の前で、威張りくさっている人間達の戯れに委ねられるのなら、生きることも死ぬことも何の意味も持たないわ。このまま死ぬのなら、島を離れ無人島に追い出されるのなら、いっそ海に出て、水になる方がいいかもしれない。大きな海の水になって、風の吹くままに揺られている方がまだましだわ。 |
音楽
TV画面、濃い青色
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| 女2 |
(着ていた上着をおもむろに脱ぎ、自分の前に置く)死ぬことは生きることなの? 生きることとは死を意味するの? この世に生と死が同居して、死は生の中に有るのよ、怖く恐ろしくて、隠れたところで、死は避けられないでしょう? 私が生きていて、息をして喋ってる今も死は既に近づいているのよ。 |
| 女3 |
この世の因果は、生と死を分けて、悪戯するけれど、何も教えてはくれようとしない。生きると言うことは、死ぬということ、それは又、再び蘇る事だってできるのよ。死が生を意味しているから。この島で生きている木の葉だって、死んで生を悟るのです。人はこの木の葉と同じなのよ。季節が変わり風が吹けば、木の葉は地面に落ちるわ。その葉が腐って地面に気を呼び戻し、そして又風が吹けば、新芽が息を吹き、生き返るのです。 |
| 女2 |
これが道(真実)ですよ……なのにどうして? どうして私がこの道を拒むのですか? これは私の死が死では無く、私の生が生で無いからかもしれませんね。生でも無ければ死でもないから、運命にしてはあまりにも過酷ですね。死ね! 死ね! と背中を押すから死にきれず、苦しくて堪らないの、これを死と呼ふのですか? 私が島に残り生きたとしても、それが生きるという事になるのでしょうか? それも違うでしょう……こんな風だから、怖くて恐ろしくてこの島から離れるのです。ここに居るのが怖くて私は行くのです。話したいけれど話せなくて行くのです。
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| 女1 |
でも、いざとなると何処へ行けば良いのやら。海になり水になって、じゃあ、その水は一体何処へ行くのですか?
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波の音
雷鳴
暗転
女、一斉に立ち上がり走り出す
TV画面、ノイズ画面
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| 女1,2,3 |
(<さっと>顔を上げる) 母さん! 海が泣いてるわ! 母さん、海が! 海が! 身震いしながら泣いているわ! 海が、海が、此方へ来るわ! 海がやってくる! 海がやってくる! 母さん! 母さん! |
暗闇
35ミリフィルムが映る
波の音
暗転
TV画面、白色画面
波の音 − ゆっくりと消えてゆく。
女、かなり遅い動作で、大きな真鍮桶の水を掌で掬い、顔を濡らしいる。
髪の毛を両手できちんと束ね、一方の肩へ垂らし、何度も水で顔を濡らす。水は流れて全身をしっとり濡らす。
女の上半身の曲線、はっきりする。
正面に向かって真っ直、視線を送る。
間
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| 女1 |
父親の分からない子を孕んだと、汚されたからと、船に乗せられ3日、4日、此処まで追い出されてきたの。 |
| 女2 |
私の涙は雨に濡れ、海は私の涙に濡らされていたのよ。数万羽の海鳥が降り注ぐ雨にもびくともせず、私の頭の上を飛び回るの。穴が開いた空が悲しいと、その穴を雨水で埋めてあげるんだよと、雨足は容赦なく降り注ぐのよ。 |
| 女1 |
こんな風にこの世が終わる。 |
| 女3 |
こんな風にこの世が終わる。 |
| 女2 |
こんな風にこの世が終わるんだわ。 |
間
音楽
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| 女1 |
この死に行く無人島の渓谷にはどんないのちも、形も、匂いもないわ。夜になれば霜が降りて、全てが真っ白なキラキラした銀色で一杯になるのよ。眩しくて(一方の腕で目を覆う。頻繁に手の甲で目の周りを擦る)一歩も前に進めないのに、海風は足を運ぶ力もくれないの。只、こんな風にじっと座って海を眺めているだけなの。 |
| 女2 |
こないだの晩は、珍しく雨が上がって、手の届かない空に大きな星が一つ、私を見下ろしていたわ。あ! あの星は母さんが送って下さったのね! 今頃は何処かのぬかるみに足を浸けて、私を見てらっしゃるのかしら? 夜明けまで、その星を見上げて座っていたの、するとほんの数秒、その大きな大きな星が、傾いたと思ったら、流れ星になって空を飛び、海の底へスーと入っていってしまったの。
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| 女3 |
私は本当に驚いて、慌てて海に飛び込んだけれど、私が足を踏むたびに初霜が<ザクザク>となるのよ。そして白く輝く霜が長い紐になって、星の落ちた海まで真っ直ぐに結ばれるの。私は、夜通し、その星の落ちた海を、こうして座って見ているのよ。
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間
TV画面、白色に変わる
女、びっくりしながら自分の手を股の間に持ってゆく。
血!
女の手に血が!
女、立ち上がる。
白の地味なスカートが血だらけに!
血が流れる。
さっと闇に
音楽
暗転
1.島の発見≪ ≫3.島の空
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