公演概要
  公演趣旨
  出演者
  公演目的
  作品概要
  台本
  Kim Sang Soo
  2003・東京公演記事
  Photo
  2001年
   韓国- ソウル公演
  2001年
   日本- 大阪公演
  kimsangsoo.com
台本】 1.島の発見    2.島から島へ    3.島の空
 
3.島の空

TV画面、白色
女1 (悲しみに沈んだ声) 昔の人は、空には陰と陽があり、地にも陰陽があり、人にも陰と陽があると言いましたね。
女3 空には何もない果てしなく広がる空と、何かが一杯詰まっている空があり、地には水と火の二つの向き合う極があり、人にも男女が有って、互いの相手が居るものだと言いましたね。この宇宙の理知は、二つが互いに調和して、空の道を成し、大地の水と火は互いにぶつかり陸と海を造り、地上の道を成し、人間の男女は互いに出会い秩序を守って、人の道を成したと言いましたね。
女2 なのに、なのに、何が、何がこんなにも厳しくて、私はこのような恨みを抱かねばならないのでしょう? 私が島に生まれ育った事が、地の道を犯した事に成るのでしょうか? 最後まで私の居場所を見つけられないのが悔やまれます。


TV画面、青色
力強い太鼓の音
女、一斉に立ち上がる
女1 可哀相だと思います。人が可哀相で、母さんが可哀相で、私も又、可哀相だと思います。
女2 目が有るのに見ることができず、耳があるのに聞くことができません。心が有るのに信じることすらできません。こんなに悲しく哀れな事が何処にあるでしょう? 鳥は飛ぶことを止め、さえずる事も止めました。木はいかなる輝きも失い枯れて死んでしまい・・・
女3 魚は腐って黒ずみ、昼が夜になり、夜は月も無く真っ暗です。光も無く、希望もありません。人々は互いが互いを殺す鬼神の前で、腐った魚と悪臭のする水で厳(おごそ)かに祭祀をします。又一人死んでゆきます。その死は最初から生命と関わりが有りません。死が日常茶飯事だから生きることも又、ぼろ雑巾のようなモノです。
女2 死んだから死ぬのではなく、殺すから死ぬだけなのです。殺すに足らなくて石で叩きのめし、刃物で突きさし、鍬(くわ)で刺し、無い掟まで作り、伝染病みたいに噂を広げ、殺して、殺して、そして死にます。あまりにも可哀想です。

TV画面、黒色
暗転
女2 (膝を曲げ両手を揃えて座る。暫くして、ゆっくりと)
人は重い地殻に押さえ付けられ息が出来ないのです。そして泥沼で長い間眠っています。
女1
人が眠りから覚め、狂ったこの世を離れてゆくとすれば、人が屍(しかばね)から蘇り、狂ったこの世を離れて行くとすれば、求める所は一体何処でしょう? 墓場でしょうか?

女2 空が私に言いました。背中から光が差しているって。でもその光を見ようとすると、目が見えなくなる事もあるって……
女1 人が眠りから覚め、狂ったこの世を離れてゆくとすれば、人が屍から蘇り、狂ったこの世を離れて行くとすれば、求める所は一体何処でしょう? 墓場でしょうか?
女2 空が私に言いました。背中から光が差しているって。でもその光を見ようとすると、目が見えなくなる事もあるって……
女3 だとすれば、この世の全て因果(縁)を断ち切ることで、光を見ることが出来るのですね? その光を見るには、いかなる光も待ってはならず、この世で全てを成しとげるには、何かになろうなんて思ってはならず、全てを知るには、何事たりとも知ろうとしてはならないのですね? ただ私がこんな死に方をするから死が怖く、恐ろしいのです。こんな死が芽を出し、花を咲かせられるでしょうか?
女1 こんな風にこの世が終わる訳がない。
女2 こんな風にこの世が終わる訳がない。
女3 こんな風にこの世が終わる訳はありえない。
女1 だから私、もう島へは帰りません。帰りませんとも。

TV画面の色が、黒からだんだん灰色、白へと変化
飛行機の音速突破音
TV画面、木の葉の黄緑色
音楽

女3 海辺の夕暮れは春先の淡い緑色です。誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきました。

TV画面、白色
女2 目を覚ますと、青い空に数万の星が降り注いでいました。その星達の放つ輝きが昨夜の悲しい心を綺麗に洗い流してくれました。推し量りえないこの世の叫びまでも、一つ一つ理解する事が出来ます。私の身体深くに負った傷ももう治りました。
TV画面 − クレパスの中から色々と綺麗なカラーが順々に出てきてTV画面を埋める。
女1 あたりに一杯、海の精気が溢れます。大きな魚が波に乗って金色の鱗(うろこ)を反射させています。その光は、鳥の羽に暖かい風を注ぎ、鳥はその風に乗ってひとりでに歌い始めます。
女3 朝です!
TV画面、クレパスカラーの変化はクライマックスに
女2 此処に花が咲いたの。
女3 赤いの、黄色いの、青いの、朱色に、紫色もあるわ。
女2 これは海で、これは山で、これは木で、これは草よ。
女1 朝日が登るわ。皆、息を殺して静まり返っているわ。私は押し寄せる波を見たの。


太陽が女の背から登った。
光が一瞬、眩しいくらい一斉に、正面に向かって差し込む。
女、ゆっくりと向きを変える。
間 
光に向かって歩き始める。
強い光に女の姿がシルエットになって浮かぶ。
女、ゆっくり歩いていたが、速度を早め光の方へすすむ。
女、立ち止まる。
光が目に眩しい。
音速を突破する飛行機音−
音楽―